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2022年4月

違いが分かる技術用語・特許用語(24)

31. by、with、using

 マーク・ピーターセン著の「日本人の英語」(岩波新書)に、『「~で」はいつもbyとは限らない 』というタイトルで、The cranes were observed by binoculars.は間違いで、The cranes were observed with binoculars.が正しいことが書かれている。著者はこの種の間違いは日本人の英語に極めて多いことを嘆いている。特許翻訳においても、この間違いは頻繁に見られ、ベテラン翻訳者でもしばしばミスを犯しているのが実情である。

 そこで、今回はこのような文脈における by と with の使い分けを説明する。

= by = 

 例えば、「ジーニアス英和辞典」の by の項には、前置詞として11の定義がある。各定義はさらに細分化されているので、細かく言うと20を超える定義があることになる。上記の文脈で使用できる by は次の2通りだけである。

(1) 動作主を表す

 受動態では、byの後には行為の主体が来る。

202242214711.png

【用例1】The shielded metal layer (36) is separated from the polysilicon layer (34) by an oxide layer (42), and the upper metal layer (38) is separated from the shielded layer (36) by an oxide layer (44). (USP 5,220,483)
遮蔽金属層(36)は酸化物層(42)により多結晶シリコン層(34)から隔てられており、上部金属層(38)は酸化物層(34)により遮蔽金属層(36)から隔てられている。(特開平5-283614改)

この文で、oxide layer (42)とoxide layer (44)は行為の主体である。従って、これらを主語にして書き換えることができる。

書き換えた能動文:An oxide layer (42) separates the shielded metal layer (36) from the polysilicon layer (34) and an oxide layer (44) separates the upper metal layer (38) from the shielded layer (36).

  著者、作者なども行為の主体なので、この用法に従って by の後に置くことができる。


(2) 手段・方法を表す

 測定手段や製造方法、分析方法などに by を使用する。

【用例2】Exellent agreement was observed between the myofibrillar diameters measured by light diffractometry and electron microscopy.
光散乱法および電子顕微鏡法測定された筋細繊維直径の間には非常によい一致が観測された。

 ここで注意しなければならないのは、測定装置の場合には by を使用しないことである (後述)。

= with =

(1) 道具を表す。

 何らかの動作に使用される道具を示す場合は with が使用される。

【用例3】During the cleaning step, the use of megasonics and/or brush scrubbing with PVA brushes is common. (USP Application No. 20040029494)
洗浄工程中に、一般に、超高周波超音波および/またはPVAブラシを用いるスクラビングを行う。(特開2004-79992)

 「スクラビング」はこすり洗いのことである。この例で、withを「で」とするよりも、「用いる」とする方が繫がりが分かりやすい。つまり、英語の前置詞と日本語の格助詞とは必ずしも一致しない。

 先ほどの、用例2は装置を用いた表現も可能である。その場合の英文は次のようになる。

用例2の書き直し:Exellent agreement was observed between the myofibrillar diameters measured with a light diffractometer and an electron microscope.
光散乱測定装置および電子顕微鏡で測定された筋細繊維直径の間には非常によい一致が観測された。

 用例2と書き直した英文を比較すると、用例2の方が簡潔であることが分かる。

(2) 材料を表す

【用例4】The method includes marking a hand of a user with an easily identifiable substance that can be washed off with a cleaning composition (19) when a soap dispenser is utilized. (WO2005/117672)
この方法は、石けん供給装置の使用時に洗浄組成物(19)で洗い落とすことができる識別の容易な物質、使用者の手に印を付けることを含む。(特表2008-500882改訳)

= using =

 usingは動詞 use の現在分詞形であり、本来は直前の名詞に係るはずだが、そうではない用法が多く見られる。

【用例5】In some embodiments, the crude product of the reaction shown in Scheme 1 may be purified using any means known in the art for that purpose. (WO2017/189534)
実施形態によっては、反応機構1に示される反応の粗生成物を、その目的のために当該分野で知られている任意の手段を用いて精製することができる。

 この例の using は動詞の直後に置かれているので、明らかに前置詞の役割を果たしている。この using は by で置きかえ可能である。

【用例6】Diffraction patterns herein were obtained using a typical laboratory powder diffractometer, utilizing the Kα line of copper. (WO2014/092764)
本明細書における回折パターンは、銅のKα線を利用した典型的な実験用粉末回折計を用いて得られた。

この例の using も前置詞とみなさなければならないが、後に測定装置が来るので with で置きかえ可能である。なお、ulilizingも同じ働きをしているが、恐らく using の重複使用を避けたものと思われる。

 用例5と用例6が示すように、usingは前置詞の by あるいは with の代用に使用されている。この用例がいつからどのようにして広まったのかは定かではないが、宙に浮いた using は前置詞として説明しないといけないにもかかわらず、未だに辞書に登録されていないのが不思議である。

 ただし、この using の用例は極めて広範囲に使用されているので、usingを上手に使うことで英文が読みやすくなる。

 なお、日本語の「用いる」あるいは「用いた」が必ずしも using、by、with のいずれにも該当しない場合が多くある。これについては、次号で詳細に説明する。

= その他の前置詞 =

 以上の説明と同じ機能を持つ前置詞が他にもある。以下はWO2009/153597から拾った用例である。

1. All samples were run on a Bruker D5000 diffractometer.
すべての試料をBrucker社のD5000回折計で分析した

 run onは句自動詞で「動作する」という意味でよく使用される前置詞だが、この用例のように句他動詞としても使用される。

2. A powder X-ray diffraction pattern was recorded using a Bruker D5000 diffractometer (wavelength of X-rays 1.5418 Å Cu source, Voltage 40kV, filament emission 40mA).
粉末X線回折パターンを、Bruker D5000回折計を用いて記録した(X線波長1.5418ÅのCu源、電圧40kV、フィラメント放射40mA)。

 装置につくwithの代わりに先ほど説明したusingが使用されている。

3. Through scanning electron microscope (SEM) topography test, energy dispersive spectrometer, (EDS) element test and X-ray diffractometry (XRD) component test, we characterize the morphology, element distribution and structural characteristics of ZnO/Ag3PO4 core-shell nanocomposite arrays structure.
走査型電子顕微鏡(SEM)トポグラフィーテスト、エネルギー分散分光計、(EDS)元素分析、およびX線回折(XRD)成分分析により、ZnO/Ag3PO4コアシェルナノコンポジットの配列構造の形態、元素分布および構造特性を決定する。

 throughは「により」の意味でよく使用される。この例では手段と測定装置が混ざっているので through が使用されたものと推定されるが、usingでもよい。

 

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