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2021年10月

違いが分かる技術用語・特許用語(19)

25. 穴と孔

 前々回に日本語では穴(あな)と孔(こう)の区別は必ずしも明確でないと述べたが、特定の専門用語では穴と孔が明確に区別されている場合もある。以下に、それぞれの代表的な用例を掲げる。

➀穴を開ける:
 以前に、この日本語に対しopen a holeという迷訳に遭遇したときは絶句したが、make/create/cut/bore a holeが無難な表現である。ただし、他動詞のpunch, bore, drill, pit, perforate, pierceなどを目的語との相性で適宜選択する方が簡潔な英文に仕上がる。

②穿孔する:
 基本的にこの語も何かに穴を開ける場合に使用される。対応する他動詞としてperforateとpunchがよく使用される。これらの動詞は「穴を開ける」と「穿孔する」で共通なので、2つの日本語は単なる表現の違いと言うことになる。

➂孔食(pitting corrosion)
 孔食は、下図に示すように、金属内部に向かって孔状に進行する局部腐食を意味する語である。

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http://www.chemical-y.co.jp/faq/q2.html

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④マクロ孔(macropore)、ミクロ孔(micropore)

 これらの語は活性炭表面の孔の状態の記述によく使用されている。次の図で明らかなように、マクロ孔といっても500 nm以上なので、非常に小さい孔を意味している。ミクロ孔は2 nm以下となっており、本来のミクロの意味よりはるかに小さい。マクロ孔とミクロ孔の間はメソ孔と呼ばれている。これらの定義はIUPACの触媒の項に定められている。

http://www.sunfield.ne.jp/~hikalo/Kenkyu/HikaloKenkyu06_01_03.html

 

 ⑤ナノ細孔(nanopore):
 バイオ分野では、人工的な細胞膜中の、幅が2 nmにも満たない「ゲート(gate)」のことを「ナノ細孔(nanopore)」と呼んでいる。

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https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003986116301680

さらに、無機化学の分野では、微細孔をナノ細孔と呼んでいる。例えば、下図に示すgraphene nanoporeはDNA配列決定に使用されている。

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https://mappingignorance.org/2017/01/23/graphene-nanopore-dna-sequencing/

このように分野によって、細孔の呼び方が異なるので注意が必要である。

【用例1】An object is to improve accuracy of reading a DNA base sequence by lowering a passing speed of a DNA molecule in a nanopore (micropore in the order of nanometer). (US 2016/0153960)
本発明の目的は、ナノ細孔(ナノメートルの大きさのミクロ細孔)内のDNA分子の通過速度を遅くすることによってDNA塩基配列の読み取り精度を向上させることである。

 この用例では、ナノ細孔がミクロ細孔の範疇に入ることを述べている。つまりミクロ(micro)はマイクロメーターという単位ではなく「微細」という意味で使用されている。

【用例2】In a central portion of the insulating support member 110, a micropore 115 that penetrates one side and the other side is formed.  The nanopore film 120 is disposed on the insulating suppert member 110.  The nanopore film 120 may include silicon nitride, and in a central portion of the nanopore film 120, a nanopore 125 is formed. (US 10,075,222)
絶縁支持部材110の中央部には、一方の面と他方の面とを貫通するミクロ細孔115が形成されている。ナノ細孔フィルム120は、絶縁性支持部材110上に配置される。ナノ細孔フィルム120は、窒化シリコンを含み、ナノ細孔フィルム120の中央部分には、ナノ細孔125が形成される。

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 このケースでは、nanoporeは字句通りにmicoporeより小さい。

 

26. 独立気泡と連続気泡

 プラスチックを発泡させたものを発泡体(foam)と呼ぶ。発泡体はプラスチック・マトリックス中に多数の気泡(cell)が分散している。これらは習慣的にporeとは呼ばない。各気泡が独立したものを独立発泡体(closed cell foam)と呼び、各気泡が繋がったものを連続発泡体(open cell foam)と呼ぶ。

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http://nosfico.weebly.com/types-of-spray-foam-insulation.html

 独立気泡発泡体(closed cell foam)は空気や湿気を通さないので断熱性が高い。また、この発泡体は強度が高く、衝撃吸収性に優れ、水に浮きやすい。用途としては、低・常温用断熱材、シーリング材、パッキン、緩衝包装材などに使用されている。
 これに対して、連続気泡発泡体(open cell foam)は密度が低く、スポンジ状で、かつ吸湿/吸水性に優れているが、構造体の強度は高くない。主な用途は、マットレス、吸音材、台所用スポンジ、緩衝包装材などである。

【用例3】"Cell" refers to a cavity contained in foam. A cell is closed when the cell membrane surrounding the cavity or enclosed opening is not perforated and has all membranes intact. Cell connectivity occurs when at least one wall of the cell membrane surrounding the cavity has orifices or pores that connect to adjacent cells, such that an exchange of fluid is possible between adjacent cells. (EP1694752B1)
気泡」とは、発泡体内に含まれる空洞を指す。空洞すなわち囲まれた開口部を囲む気泡膜が穿孔されておらず、すべての膜が無傷の場合、気泡は独立している。気泡の連結性は、空洞を囲む気泡膜の少なくとも1つの壁が隣接する気泡に接続するオリフィスすなわち孔を持つときに起こり、その結果、隣接する気泡間で流体の交換が可能になる。

【用例4】Open cell" refers to any cell that has at least one broken or missing membrane or a hole in a membrane. (EP1694752B1)
連続気泡」とは、少なくとも1つの破損または欠落した膜または膜中にを持つ任意の気泡を指す。

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