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実戦コラム

技術翻訳としての特許翻訳 第4回

第4回 日英翻訳における技術のポイント

 日本語は数の概念がないか、あるとしても曖昧な場合が多い。日英翻訳にあたって最初に留意すべき点は数の把握とそれに関連して冠詞を決めることである。この部分は日本語の文字からは浮かび上がってこないので、翻訳者が文脈で読み取る必要がある。明細書を丁寧に読めば数を把握できる場合は問題が起こらないが、技術的な常識がないと数を決めることができない場合があるので注意しなければならない。

 

<例1>   該スイッチング素子を共振周波数の近傍の周波数で交互にオン、オフして制御することによって、トランスの一次側コイルに正弦波状の電流を流す。そして、トランスの二次側コイルに誘起された電流をダイオードにより整流しコンデンサで平滑して出力するもので、高効率・低ノイズのスイッチング電源装置として知られている。

【ある訳例】The switching elements are alternately activated or inactivated in the vicinity of a resonance frequency such that sine-wave current flows to the primary coil of the transformer. The current induced in a secondary coil of the transformer is rectified with a diode and is smoothed with a capacitor to be output. The switching power supply device having such configurations can achieve high power efficiency and low noise.

 一見、完璧に見える翻訳だが、この翻訳者はこの分野に関する技術常識を持っていないことが明らかである。まず、「共振周波数の近傍」を字句通りにin the vicinity of a resonance frequencyとしていることである。「近傍」は「近く」の漢語表現だが、あくまでも「近傍」は「近く」であって、その箇所あるいは部分を含まない。共鳴は、通常共振周波数で行うのだからここは「共振周波数の近傍」はむしろ「共振周波数で」としなければならない。誤差を含んでその前後の周波数を含むのであれば「共振周波数あるいはその近くの周波数で」と書かなければならない。このように、日本語明細書における「近傍」はしばしばその位置あるいは時間を含んでいることを頭に入れておかなければならない。

 共振回路にもいろいろあるが、下図に示すのはコイルとコンデンサを直列に接続した「直列共振回路」である。右図の共振周波数と電流の回路が示すとおり、電流値が最も高い共振周波数f0を使用するのが筋だから、単にin the vicinityでは駄目でatとすべきところである。ただし、共振周波数の前後でも電流は減少するが流れるので回路の安定性などを考慮して「近傍」も含めておくのが、法律文書としての役割を果たす明細書翻訳では重要なことである。

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 第2の問題は、ダイオードをa diodeと単数にしていることである。一個の整流ダイオード(下図)を使用する整流は「半波整流」という。半波整流では、入力した交流電流の半分しか利用できないので、非効率的である。全波整流のためには整流器は少なくとも2つ必要であるが、現在では整流ダイオード4つをブリッジに接続した全波整流回路が使用されている。従って、例1のダイオードは複数でなければならない。単数にしても致命的ではないが、技術常識の欠如をさらけ出すので好ましくない。

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半波整流回路(http://www.miyazaki-gijutsu.com/series4/densi0421.html)

 

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http://www.eonet.ne.jp/~hidarite/me2/img/heikatukairo02.gif

 

【改訂訳例】The switching elements are alternately turned on and off at or near the resonance frequency such that sinusoidal current flows in the primary coil of the transformer. The current induced in a secondary coil of the transformer is rectified with diodes and is smoothed with one or more capacitors before output. The switching power supply having such a configuration can output having high power efficiency with low noise.

 上に掲げた全波整流回路の図では平滑回路として1個のキャパシタが使用されているが、改訂訳例でキャパシタの数をone or more capacitorsとしたのは、平滑回路のキャパシタは1個とは限らないからである。2番目の文をThe current induced in a secondary coil of the transformer is rectified and smoothed with a rectifying circuit and a smoothing circuit for output.とするとdiodeとcapacitorの数を隠すことができる。日本語を逐一訳すのではなく、技術的に意味等価な範囲で言い換える技術を習得すれば、表現の幅が広がる。

 

 以上述べたように、自分の知らない技術用語が出てきたら、辞書で訳語を調べる前に、日本語でその技術的な意味を正確に知る習慣をつけることが重要である。現在はほとんどの技術をインターネットで確認することができる。この例のように、整流について調べたい場合はGoogleで「整流」あるいは「整流器」で画像検索し、わかりやすい図面を収載しているウェブページにアクセスして、整流の原理を正しく理解すればよい。

 

【教訓】

①    特許翻訳は技術翻訳のひとつ

②    表現におぼれる前に技術を正しく理解する

③    技術が理解できたら、英文構築を行う

     ④    英文チェックは技術的意味が他人に理解できるように訳されているかで行う

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