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2019年4月

技術翻訳としての特許翻訳 第2回

第2回 英日翻訳における技術の理解(2)

今回は電気・機械分野における専門技術を理解していないために起こった誤訳例を述べる。

  1. Typical high performance delta sigma modulators include fourth (4th) order and higher loop filters although filter 104 can be any order.

【公開された誤訳】典型的な高性能デルタシグマ変調器は、4番目(第4)の高ループフィルターを含むが、何番目のフィルター104であってもよい。

この特許は、非線形デルタシグマ変調器でアナログ信号を量子化するシステムに関するものである。この訳のfourth (4th) orderany orderorderは「高次のノイズ」のことであって、「順番」ではない。

この誤訳は、この分野の技術が全く理解できていないことを露呈している。この記述はアナログ信号に含まれている「高次成分の雑音」を除く技術に関するものである。アナログ信号は特定の周波数を持つ波で表されるが、その整数倍の高次の周波数成分を高調波(harmonic wave)と呼んでいる。高調波は音楽や音響工学分野では倍音と呼ばれる。 元々の周波数を基本波、2倍の周波数(2分の1の波長)を持つものを2高調波(second harmonic)、さらに n倍の周波数(n分の1の波長)を持つものをn高調波(n-th harmonic)と呼ぶ。波に関するこれらの最低限の知識がないと、この特許の翻訳はおぼつかない。

なお、音楽では、「一オクターブ上の音」というが、これは基準となる音の倍音のことで、第2高調波に相当する。バイオリンなどの弦楽器では基本となる音とその倍音を一本の弦で同時に出す特殊な奏法があるが、これを「ハーモニック奏法」と呼んでいる。仮に物理の知識があやふやでも、音楽のこの種の知識があればそれを手がかりに高調波について調べることができるはずである。どんな知識でも知っておくと、翻訳には有利に作用する。

今は、Googleの画像検索や動画検索で高調波を視覚的・聴覚的に理解することができる。非技術系翻訳者は技術の理解をおろそかにして訳語の選定にばかり関心を持つ傾向が強いが、ウェブページや電気に関する書籍などから正しい知識を学ぶ習慣を身につけるべきである。そうしないと、今回示したような恥ずかしい誤訳を生み出すことになる。

以下に改訂訳例を挙げる。

【改訂訳例】典型的な高性能デルタシグマ変調器は、4次以上の(高調波)成分を除くループフィルターを含むが、フィルター104の次数はこれらに限定されない。

つまり、”any order”は「何次(以上)であってもよい」という意味である。

この特許翻訳では、以下に示すように、高調波に関する部分が一貫して誤訳になっているが、これらの部分の技術的な意味を理解する努力をすると、逆に最初の文が誤訳であることに気付くはずである。

変調器に関する冒頭の説明は、次のようになっている。

Figure 1 depicts a conventional delta sigma modulator 100 that includes a monotonic quantizer 102 for quantizing a digital input signal x(n), where “x(n)” represents the nth input signal sample.  The delta sigma modulator 100 also includes an exemplary fourth (4tu) order noise shaping loop filter 104 that pushes noise out of the signal band of interest.(公開された誤訳:図1は、デジタル入力信号x(n)を量子化する単調量子化器102を含む従来のデルタシグマ変調器100を示す。ここで「x(n)」はn番目の入力信号サンプルを示す。また前記デルタシグマ変調器100は、雑音を関心の信号帯域外に押し出す典型的な4番目(第4)のノイズシェーピングループフィルター104を含む。)

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【改訂訳例】図1は、デジタル入力信号x(n)を量子化する単調量子化器102を含む従来のデルタシグマ変調器100を示す。ここで「x(n)」はn次の入力信号サンプルを示す。また前記デルタシグマ変調器100は、目的とする信号帯域から雑音を取り除く典型的な4次のノイズシェーピング・ループフィルター104を含む。

ノイズシェーピングはデルタシグマ変調において、ノイズ成分を高い周波数領域(この例では第4高調波領域)まで押しやる操作のことである。こうすることで信号領域のノイズ成分を減らすことができる。

さらに、明細書の図10に関する次のような説明部分も間違っている。

Figure 10 depicts a lookahead, jointly non-linear delta sigma modulator 1000 that includes an Nth order noise shaping filter 1004, such as filter 104 and a quantizer 1001 implementd by a jointly non-linear function generator 1002. (公開された誤訳:図10は、フィルター104などのN番目のノイズシェーピングフィルター1004、および合同非線形関数発生器1002によって実装される量子化器1001を含むルックアヘッド合同非線形デルタシグマ変調器1000を示す。)(紙面の都合で図10は掲載省略)

この英文中のjointly nonlinearも、訳文の「合同」も意味がわかりにくいが、明細書中にjointly nonlinearの定義があるので当業者には理解できるのかもしれない。訳は「N番目」が間違っているほか、「ルックアヘッド」が安易である。

【改訂訳例】図10は、フィルター104などのN次のノイズシェーピング・フィルター1004、および合同非線形関数発生器1002に実装される量子化器1001を含む先読み合同非線形デルタシグマ変調器1000を示す。

次の部分とそれに関連する特許請求の範囲の訳も技術的に全く意味が通じない。

The jointly non-liner delta sigma modulator includes a noise shaping filter to process a signal and generate N state, variables, wherein N is greater than or equal to two.(公開された誤訳:前記合同非線形デルタシグマ変調器はノイズシェーピングフィルターを含み、信号を処理して状態変数を生成する。ここで、は2より大きいかまたは等しい。)

【改訂訳例】前記合同非線形デルタシグマ変調器はノイズシェーピング・フィルターを含み、信号を処理してN個の状態変数を生成する。ここで、は2以上である

Claim 6. The signal processing system as in claim 5, wherein the subset of the integrators consists of the Nth integrator through the N-xth integrators, wherein 2 ≤ X ≤ N-1.(公開された誤訳:【請求項6】前記積分器のサブセットがN番目の積分器から(N-x)番目の積分器で構成され、ここで、2≦x≦N-1である、請求項5に記載の信号処理システム。)

【改訂訳例】【請求項6】前記積分器のサブセットがN次の積分器から(N-x)次の積分器(2≦x≦N-1)で構成される、請求項5に記載の信号処理システム。

確かに、この特許は数式も多く、専門家以外には理解が困難な内容である。完全ではなくとも技術の基本的なことはきちんと理解して翻訳するという姿勢で臨まないと、専門家が読んで納得できる翻訳文には仕上がらない。

【教訓】

① 専門外の分野の翻訳の前に、基本になる技術を正しく理解すること

② Google、特にGoogle画像検索で技術の理解を高める

③ 技術的意味が通じない部分は調べ直すことが必要

④ 安易なカタカナ語を避ける

 

違いが分かる技術用語・特許用語(10)

      16   reflectanceとreflectivity, transmittanceとtransmissivity, absorbanceとabsorptivity 

これらは光などの電磁波の性質を述べる用語である。本論に入る前に、reflection(反射)、transmission(透過)、吸収(absorption)の関係について説明する。

 反射は、2つの媒体の境界で光や電波などの波動が当たって跳ね返る(表面反射)、あるいはある媒体内で跳ね返る(体積反射)現象のことである。透過は、媒体を光や電波が通り抜ける現象のことである。吸収は媒体中で光や電波が吸収されて熱エネルギーに変化する現象のことである。

 入射光に対する反射光の比率を表す語に反射率(reflectance)と反射能(reflectivity)がある。reflectivityは2つの媒体の境界での光の反射率を意味し、reflectanceは2つの特定の媒体の内部反射や内部散乱などの効果を加味した光の反射率を意味する。

 次の図は、空気からガラスを通って空気へ抜ける光の反射率を模式的に示している。

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 この図で、空気からガラスに入る光のreflectivity(反射能)は0.074である。従って、ガラスを透過する光の透過能(transmissivity)は1.0-0.074 = 0.926となる。ガラスを透過した光の一部は後面で内部反射されて上に向かう。この光の一部は外に出るが、一部は上の境界で内部反射されて下に向かう。このような内部反射が何度も繰り返されて内部反射光は減衰する。上の境界で内部反射光を全部合わせた値が反射率(reflectance)となる。従って、reflectanceはreflectivityより大きな数値を取る。一方の透過光に視点を変えると、透過能(transmissivity)は0.926だが、実際には内部反射で上面から上に逃げる光を差し引いた値がtransmittance(透過率)となる。当然のことだが、transmittanceはtransmissivityよりも小さくなる。不透明材料の場合は、光の透過は起こらないと考えられるので、reflectanceとreflectivityは実質的に同じとなる。

 こうしてみると、実際にはreflectanceとtransmittanceが実際の測定値を反映していると考えられる。

 では、実際の用例でこれらの語がどのように使用されているかを検証する。

用例1.     An electronically dimmable optical device, including, in sequence, an active absorbing polarizer; a first static reflective polarizer; an active polarization rotator; and a second static reflective polarizer; configured so that the reflectivity and/or transmissivity of the device can be controlled (increased or decreased) by application of a voltage across the active absorbing polarizer and/or the active polarization rotator. (USP 9,304,333)

公開公報の訳:順番に能動吸収偏光子12と、第1の静的反射偏光子14と、能動偏極回転子と、第2の静的反射偏光子18と、を含む電子的調光可能光学装置であって、同装置の反射率及び/又は透過率が能動吸収偏光子及び/又は能動偏極回転子の両端に電圧を印加することにより制御(増加又は低減)されるように構成された電子的調光可能光学装置。(特開2018-32042)

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 英語のreflectivityとtransmissivityがそれぞれ「反射率」と「透過率」と訳されている。

用例2.     The article of one or more embodiments exhibits superior optical performance in terms of light transmittance and/or light reflectance. In one or more embodiments, the article exhibits an average light transmittance (measured on the anti-reflective surface only) of about 92% or greater (e.g., about 98% or greater) over an optical wavelength regime (e.g., in the range from about 400 nm to about 800 nm or from about 450 nm to about 650 nm). In some embodiments, the article exhibits an average light reflectance (measured at the anti-reflective surface only) of about 2% or less (e.g., about 1% or less) over the optical wavelength regime. (WO2016/018490)

公表公報の訳:1つ以上の実施形態の物品は、光透過率および/または光反射率に関して優れた光学的特性を示す。1つ以上の実施形態において、物品は、光学波長領域(例えば、約400nm~約800nm、または約450nm~約650nmの範囲)で、約92%以上(例えば、約98%以上)の(反射防止表面のみで測定される)平均光透過率を示す。実施形態によっては、物品は、光学波長領域で、約2%以下(例えば、約1%以下)の(反射防止表面のみで測定される)平均光反射率を示す。(特表2017-519232改)

 測定値ということでreflectanceとtransmittanceが使用されている。

用例3.     The relative energies of the output pulses can be controlled by choosing the transmission and reflection coefficients of the beam splitters. (WO2015/195877)

公表公報の訳:出力パルスの相対エネルギーは、ビームスプリッタの透過率および反射率を選択することによって制御できる。(特表2017-525144)

 ここでは、transmittanceの代わりに、transmission coefficient(透過係数)が、reflectanceの代わりにreflection coefficient(反射係数)が使用されている。訳はどちらも「率」となっている。

用例4.     Adjacent microlayers also have a refractive index mismatch Δnz that provides the film with reduced reflectivity R1 and increased transmission for p-polarized light in the extended wavelength band incident on the film in a first plane of incidence at an angle θ oblique, where R1 is no more than half of the minimum of on-axis reflectivity. (WO2010/059566)

公表公報の訳:隣接するマイクロ層はまた、斜角θの第1入射面においてフィルムに入射する拡張された波長帯域にて、p偏光に関して、低減した反射率R1及び増加した透過率をフィルムに提供する、屈折率不整合Δnzを有し、R1は軸上反射率の最小値の半分以下である。(特表2012-509509)

 用例1と同じく、reflectivityとtransmissivityがそれぞれ「反射率」と「透過率」と訳されている。

 次に、日本語明細書の英訳例を示す。

【課題1】フィルム幅方向中央部から5cm×5cmのサイズでサンプルを切り出した。次いで、分光光度計((株)日立製作所製、U-4100  Spectrophotometer)を用いて、入射角度Φ=0度における透過率及び反射率を測定した。

訳例:A sample of 5 cm square was cut off from the center along the width of the film.  The transmittance and reflectance at an incident angle Φ = 0 degree of the sample were determined with a photospectrometer U-4100 made by Hitachi, Ltd.

【課題2】光源から測定光をハーフミラーに照射した場合、理想的にはハーフミラーの表面からの入射された光に対しても、ハーフミラーの裏から入射された光に対しても、反射率および透過率は同じであることが望ましい。しかしながら図6に示すように、実際にはハーフミラーはわずかな厚みを有しており、表面が蒸着層となっていることが多い。そうすると、ハーフミラーの表面から入射された光に対する反射率(または透過率)と裏面から入射された光に対する反射率(または透過率)は、わずかに異なる可能性がある。そして絶対反射率測定を正確に測定する場合は、このハーフミラーの表面、裏面に対する誤差(表面と裏面の特性の違い)も考慮する必要がある。

訳例:It is preferred that the incident light on the front face of the half mirror and the incident light on the back face of the half mirror have the same reflectance and transmittance ideally in the case that the half mirror is irradiated with light from the light source.  However, the half mirror actually has a slight thickness as shown in Fig. 6 and is provided with a deposited surface layer; hence, the incident light on the front face and the incident light on the back face will have slightly different reflectance or transmittance.  Accordingly, the absolute reflectance should be measured in view of such a difference between the front and back surfaces of the half mirror.

 

 次に、absorbanceまたはabsorbencyは、ある物体を光が通った際に強度が弱まる度合いを示す無次元量のことで、「吸光度」と呼ばれる。吸光度は透過率(transmittance)の逆数の常用対数値で表現される。詳しく説明すると、波長ラムダにおける吸光度Aλ

  Aλ = - log(I/I0

で表される。つまり、入射光強度I0と透過光強度Iの比(透過率)の常用対数をとり、吸収のある場合を正とするために負号を付けたものである。透過率が光路長に対し指数関数的に減衰するのに対し、吸光度は対数で表されているため光路長に比例して減少する。

 なお、absorptivityは、辞書では「吸光率」、「吸光係数」、「吸収率」、「吸収能」、「吸収度」、「吸収係数」、「吸光」、「吸収性」など多くの訳語が登録されているすが、「吸収能」がもっとも一般的な用語と考えられる。

用例5.     Upon addition of the H2O2, the absorbance increased rapidly at all wavelengths and then decreased rapidly.

訳例:過酸化水素を添加すると全波長で吸光度は急速に増加し、次いで急速に減少した。

【課題3】450nmおよび550nmにおける吸光度を測定し、これらの吸光度の差を求めた。

訳例:The absorbances at 450 nm and 550 nm were measured and the difference between them was calculated.

 

まとめ

  1. 反射能(reflectivity)は2つの物体の境界における光の反射率を表し、反射率(reflectance)はreflectivityに内部及び裏面での反射による寄与を加えた値を表す。従って、一般には、reflectanceの方がreflectivityより大きい。
  2. 透過能(transmissivity)は1からreflectivityを引いたものである。入射光のすべてが裏面から出射するわけではないので、透過率(transmittance)は透過能(transmissivity)よりは小さい。
  3. 明細書ではreflectance (transmittance)とreflectivity (transmissivity)のどちらを指しているのか明確でないことがある。

 

違いが分かる技術用語・特許用語(9)

14   吸収(absorption)、吸着(adsorption)、収着(sorption)

 吸収(absorption, 動詞はabsorb)は、物質(吸収質:absorbate)がある相から別の相(吸収媒あるいは吸収剤:absorbent)に移動する現象を意味します。語幹のabは「~から」、語尾のsorbは「吸い込む」の意味を持っています。吸収は物理吸収(physical absorption)と化学吸収(chemical absorption)に分類されます。スポンジが水を吸収するのは物理吸収で、塩化カルシウムや五酸化リンが空気中の水分を吸収するのは化学吸収です。「光の吸収」のように、物以外でも使用されます。

 

用例1.      It is apparent from FIG. 8 that as the absorbance for the band at 316 nm decreases, a new absorption appears at 516 nm which increases in intensity for approximately 100 s, but then it decreases back to its starting value. (USP 6,136,223)

訳例:図8から明らかなように、316nm帯の吸光度が減少するにつれて、516nmに新たな吸収が現れ、約100秒間強度が増加するが、また最初の値に戻る。

 

用例2.      The device will also bypass the proximal small intestine or the roux limb of the intestine in order to produce intestinal mal absorption, bilio-pancreatic diversion or both. (WO2017/52694)

訳例:この装置はまた、腸の吸収不良、胆膵バイパス、またはこの両方を達成するため、近位側の小腸または腸のルー脚を迂回する。

 

 吸着(adsorption, 動詞はadsorb)は2つの物体の界面で、濃度が周囲よりも増加する現象のことを意味します。具体的には、気相/液相、液相/液相、気相/固相、液相/固相の各界面で起こります。吸着される物を吸着質(adsorbate)、吸着する媒体を吸着剤又は吸着媒(adsorbent)と呼びます。adsorbはad(~の方へ)とabsorbが合わさってできた語です。要するにabsorbとの区別のために作られた語と考えて差し支えありません。吸着も物理吸着(physisorption)と化学吸着(chemisorption)に分類されます。前者では吸着時に吸着質と吸着媒の間に電子の授受がないのに対し、後者では電子の授受があります。

 冷蔵庫の脱臭剤などに使用される活性炭は、活性炭表面における分子間引力(Van der Waals力)による物理吸着の他に、被吸着物によっては、化学的な結合力による化学吸着作用を持つ場合があります。

 

用例3.      US 7,208,651 discloses flushing away from the adsorbent chamber the contents of a transfer line which previously has been used to remove the raffinate stream with one or both of a feed mixture and a material withdrawn from the adsorption zone.

訳例:米国特許第7,208,651号には、供給混合物と吸着区域から回収された物質の一方又は両方を含む抽残液流を除去するために前の段階で使用した移送ラインに液を勢いよく流して内容物を吸着剤室から洗い流すことが開示されている。

 

 固体/気体界面や固体/液体界面に気体分子や溶質が吸着されるとき、固体内部への吸着質の吸収を伴うことがあります。吸着と吸収が同時に起きる現象を収着(sorption)といいます。英英辞典には"take up a liquid or a gas either by adsorption or by absorption"と定義があります。例えば、活性炭やシリカゲルの多孔性固体の細孔内には吸着質が収着されて気相中や溶液内に比べてその濃度が大きくなります。収着という用語に対応して、収着媒(sorbent)、収着物あるいは収着質(sorbate)という用語が使われます。

 なお、吸収、吸着、あるいは収着された物質がそれぞれの媒体から抜け出す作用を脱着(desorption)と呼びます。

 

用例4.      The rotating sorption bed (1) is contained within a plurality of manifolds (8, 9) and the sorption bed (1) and the manifolds (8, 9) are sealed to one another via sealing means (10). (WO1988/006913)

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訳例:回転式収着床(1)は複数のマニフォールド(8,9)内に収容されており、収着床(1)とマニフォールド(8,9)は封止手段(10)二よりお互いに封止されている。

 

 なお、sorption isotherm(等温収着曲線)という語がありますが、実際にはadsorption isotherm(等温吸着曲線)であることがよくあります。

 

15    関連する語:吸蔵(occlusion)、インターカレーション(intercalation)

 吸蔵(occlusion)は気体や液体が固体内部に取り込まれる現象を意味する語です。例えば、パラジウムは体積で数百倍の水素を吸蔵することができます。パラジウム以外にも多くの水素吸蔵合金が知られています。吸収や吸着と異なり、吸蔵の場合は、金属あるいは合金元素と水素との間で固溶体と呼ばれる結晶構造が形成されるのが特徴です。又、マグネシウムと水素は水素化マグネシウムという化合物を作ります。この場合は化学吸蔵と呼ばれます。水素吸蔵合金はニッケル・水素蓄電池、水素自動車の燃料タンクなどに応用されています。

 

用例5.      Upon engine ignition, effectuates hydrogen flow from the high pressure alloy exchanger with rapid heating of the low pressure alloy in the low pressure metal hydride heat exchanger due to hydrogen occlusion. (WO1994/003710)

訳例:エンジン点火のとき、水素吸蔵による低圧合金の急速加熱によって、高圧合金交換器から低圧合金交換器への水素の流入を行なう。(特表平08-500875)

 

 医学、生化学の分野では、occlusionは「閉塞」の意味で使用されます。

 

用例6.      The success of interventions used to prevent or alleviate these conditions, such as thrombolysis and angioplasty are also compromised by platelet-mediated occlusion or re-occlusion. (WO2011/067571)

訳例:これらの症状を予防又は軽減するのに用いられる血栓崩壊及び血管形成術のような介入の成功もまた、血小板による閉塞又は再閉塞によって損なわれる。

 

 インターカレーションは2つの層間に原子あるいは分子が挿入される現象のことです。特に、リチウムイオン二次電池では放電時にanodeの2つのグラファイト層間にリチウムイオンが挿入(intercalete)されることをいいます。充電時には、逆にグラファイト層間からリチウムイオンが脱離(deintercalate)されます。

 

用例7.      The battery further comprises an electrolyte capable of supporting reversible deposition and stripping of aluminum at the anode, and reversible intercalation and deintercalation of aluminum or lithium at the cathode. (WO/2012/044678)

訳例:電池は、陽極におけるアルミニウムの可逆的な堆積・脱離ならびに陰極におけるアルミニウム又はリチウムのインターカレーション及びデインターカレーションを支援する電解質をさらに含む。

 

 次の例のように、日本語明細書では、この現象をいろいろな呼び方をしています。

 

翻訳事例1  セラミックス焼結体からなる正極板は、充放電に伴うLiイオンの脱挿入に伴い寸法変化する。

訳例:A positive electrode plate made of a ceramic sinter undergoes a variation in dimension by the intercalation and deintercalation of lithium ions accompanied by charge and discharge.

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