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実戦コラム

違いが分かる技術用語・特許用語(6)

  10 cellとbattery(電池)

 電池を意味する英語にcellとbatteryがある。cellは本来は監獄などの非常に狭い部屋を意味する語であった。これが転じて、動植物の「細胞」の意味を持つようになり、電気化学の分野では、化学反応で電流を生じる物質を含む容器、すなわち「電池」あるいは光を電気エネルギーに変える装置、すなわち「太陽電池」の意味で使用されている。携帯電話をcell phoneと呼ぶのは電波の受信範囲が細胞のように細かく区切られているからである。

 一方、batteryはMerriam-Websterにはa group of two or more cells connected together to furnish electric currentとあるので、通常は複数のcellを組み合わせたものを言う。

 蓄電池バンク(http://batterybank.jp/)の専門用語集には、「セル(cell)」を「電池の構成単位の一つで、単電池とも呼ばれます。乾電池型以外の二次電池は、一定の出力・電圧・容量を得られるように複数のセルを接続して作られており、それをパッケージングしたものが一般にバッテリーと呼ばれるものになります。したがって、乾電池はセル(単電池)そのもので、バッテリーはセルの集合体であると言えます。例として、カーバッテリー(鉛蓄電池)では電圧2Vのセルを6個直列に接続し、12Vの電圧(起電力)を得ています。」とある。英語では、https://circuitglobe.com/difference-between-cell-and-battery.html に One of the major difference between the cell and the battery is that the cell is the single unit, whereas the battery is the group of cells.と説明があり、詳細な違いが表で要領よくまとめられている。

 従って、cellとbatteryを厳密に区別したい場合は、前者を「単電池」、後者を「組電池」とするとよい。なお、もっとも一般的な乾電池は一個の単電池で構成されているのでcellと呼ぶのがよい。これに対して、自動車に搭載される鉛蓄電池は複数の単電池を直列に配置して作られている。単電池の起電力は約2ボルトなので、6個を直列配置すると12ボルトの起電力が得られる。

 次に、cellの種類について述べる。

 乾電池(dry cell):乾電池は電解質(electrolyte)が通常は粉末の形態を取っている。現在では、電池の主流を占め、マンガン乾電池など多くの種類が市販されている。

 湿電池(wet cell):電解液を液体状体のままで使用する電池のことで、乾電池が普及するまでは、湿電池が主流であった。このように、電池にはcell(単電池)とbattery(組電池)の両方ある。

 蓄電池(reserve cell):鉛蓄電池のように充電可能な電池のこと。この呼び方は後で述べる二次電池(secondary battery)と混同を起こしている。

 燃料電池(fuel cell):水素と酸素を化学反応させて電流を発生させる装置。「電池」という名前は付いているが、蓄電機能は持っていない。単電池で約1.1ボルトの起電力を持っているが、実用電圧を得るために燃料電池を直列に配置したものを「燃料電池積層体(fuel cell stack)という。燃料電池にはbatteryという語は使用しない。

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 太陽電池(solar cell):光起電力効果(photovoltaic effect)を利用し、光エネルギーを電力に変換する装置。発光ダイオードと逆の原理を使用している。燃料電池と同じく、蓄電機能は持っていないのでbatteryという語は使用しない。太陽電池を複数枚直列接続したパネル上の製品をソーラーパネルまたはソーラーモジュールという。燃料電池と異なり、縦に積み重ねる(stack)することはできないので、こちらはpanelという。モジュールを複数個並列接続したものをソーラーアレイという。

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 モジュールは所定の電圧を得るためにセルを直列に配置し、アレイは所定の電力(電流)を得るためにモジュールを並列に配置している。

 次に、組電池(battery)の種類について述べる。

 一次電池(primary battery/cell):電池内の電気化学反応が不可逆で再使用できない電池。ほとんどの乾電池がこれに属する。実際には充電可能なものもあるが、充電できるように設計されていないので火災や爆発の危険性があるので、決して充電してはならない。筆者はあるとき間違って充電したことがある。幸い事故には至らなかったが気づいて冷や汗をかいた記憶がある。

 二次電池(secondary battery/cell):充電可能な電池。rechargeable battery/cellとも言う。鉛蓄電池は古くから使用されている二次電池であるが、「二次電池」という用語自体よりも古くから使われているので「蓄電池」と呼ばれている。現在使用されている代表的な二次電池は「リチウムイオン電池(lithium ion battery/cell)」である。

 

  11 陽極(cathode)と陰極(anode)

 電池以外の電機・電子機器ではanodeを「陽極」、cathodeを「陰極」と呼ぶが、電池では逆にanodeを「陰極」、cathodeを「陽極」と呼ぶ。これは、英語と日本語では定義の基準が異なっていることに由来する。

 英語のanodeとcathodeの語はファラデーにより命名され、ギリシャ語で上り口を意味する'anodos'と下り口を意味する'cathodos'に由来する。つまり、anodeは反応系(電池内部)から電子が流入する電極を意味し、cathodeは反応(電池内部)系に電子を流出する電極を意味する。

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 日本語の「陽極」は電位の高い方の電極を指し、「陰極」は電位の低い方の電極を指す。電流は電位の高い方から低い方へ流れる(電子は負の電荷を持っているので電位の低い方から高い方へ流れる)ので、上図のボルタ電池でも理解できるように、cathodeが「陽極」ということになる。

 電池だけが日本語と英語の関係が逆転している理由は、電池は他の機器にエネルギーを供給しているが、他の機器や装置は外部から電気エネルギー(直流電流)の供給を受けていることによる。

 ここで、素朴な疑問が発生する。二次電池を充電する場合は、外部からエネルギーを取り込んでいるので、電極の役割は放電時(使用時)とは逆になっている。日本語も英語も充電時の電極の呼び方は電気化学的には正しくないと言うことになる。しかし、電極の呼び方を放電時と充電時で変えることは、非現実的である。

 そこで、現在では電池の+記号の付いている極を「正極 (positive electrode)」、-の記号の付いている極を「負極 (negative electrode)」と呼んでいる。最近の二次電池の特許では、「陽極」、「陰極」と呼ばずに、「正極」、「負極」と呼んでいるのはこうした事情によるものである。

 蛇足だが、電池の電極をpoleとした訳は好ましくない。

           

 

 

 

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