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2019年2月

ブログ「違いが分かる技術用語・特許用語(8)

  1. カスケード(cascade)とカスコード(cascode)

 これらの紛らわしい2つの語は電気回路を記述する用語です。

 カスケード(cascade)は滝あるいは、急峻な岩場にある多段の滝を意味する語が転じて、電気分野では、例えば、複数のアンプを直列に接続した一般的な回路構成のことを指します。

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https://e2e.ti.com/group/jp/b/weblog/archive/2014/06/10/cascade-cascode

 カスコード(cascode)はcascade connection(直列接続)とtriode(三極管)を組み合わせたいわゆるかばん語で、直列配置された2つのトランジスタのうちのQ1がエミッタ接地、Q2がベース接地となっていて、かつQ1の出力(コレクタ)にQ2の入力(エミッタ)が接続された回路のことをカスコード回路と呼びます。

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http://nw-electric.way-nifty.com/blog/2012/10/post-bb49.html

 例えば、特開2016-127496には、「第1トランジスタ23のエミッタが第1入力端子21に接続され、第1トランジスタ23のコレクタと第2トランジスタ24のコレクタが接続されることにより、第1トランジスタ23及び第2トランジスタ24はカスケード接続される」、さらに、「第4トランジスタ41及び第5トランジスタ42のそれぞれはnpnトランジスタであり、第4トランジスタ41はエミッタ接地され、第5トランジスタ42はベース接地されることによりカスコード接続される。」との記載があります。

 

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 これら2つの語は非常に紛らわしいのでよく誤用されています。例えば、次例のように、特に、「カスコード」とすべきところが「カスケード」となっている誤用が多くあります。

  1. The drain of the cascode transistor 516 and the drain of the cascade transistor 526 are each coupled to a first side of a transformer 540. The drain of the cascode transistor 526 and the drain of the cascode transistor 528 are each coupled to a first side of a transformer 544. (WO2015/148893)[カスコードトランジスタ516のドレイン及びカスケードトランジスタ526のドレインは各々、変圧器540の第1の側に結合される。カスコードトランジスタ526のドレイン及びカスコードトランジスタ528のドレインは各々、変圧器544の第1の側に結合される。(特表2017-510202)]

 

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 文脈および図面からも明らかなように、"cascade transistor"は"cascode transistor"の誤りです。PCT出願の翻訳文ということで、公表公報でもこの誤りは是正されていません。

 日英翻訳でも同じような間違いが見いだされます。翻訳者として細心の注意を払う必要があります。

 cascadeという語は、「次から次に起こる」という意味でも、よく使用されます。例えば、化学分野では「カスケード反応(cascade reaction)」という語があります。これは、一度の操作によって3つ以上の反応が連続して起こる反応様式のことです。最初に述べた、小滝の水が階段状に連なって流れ落ちる情景になぞらえた表現です。この連続反応はタンデム反応あるいはドミノ反応(domino reaction)とも呼ばれます。

 血液の凝固もカスケード反応と言われています。凝固カスケード(coagulation cascade)という用語があります。インターネットで画像検索すると、凝固カスケードの図解が数多くヒットします。興味のある方は是非ご覧ください。

 機械分野では、cascadeは翼列と呼ばれることがあります。これは、同じ翼を等間隔で、かつ同一の姿勢で直線的または円上に配列したものを意味する語です。

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特開2015-071968

 

違いが分かる技術用語・特許用語(7)

  1. resilient, elastic, flexible

 resilient (resilience), elastic (elasticity), flexible (flexibility)は物体が損傷を起こすことなく歪みに耐えうることを意味する形容詞(名詞)です。

 resilientは変形力あるいは圧力を除いたときに速やかに元の形状に回復する能力を意味する形容詞です(名詞:resilienceまたはresiliency、副詞:resiliently)。対応する日本語は「回復力のある」、「反発性のある」、「弾力的な」などです。例えば、a resilient innersoleは「反発性の靴の中敷き」のことです。

用例1.In the embodiment shown, the body 19 includes a protrusive resilient flap 22, which extends between the vanes 21 and is repeatedly struck by the vanes 21 as the ball 20 rotates. (2013/093469)[図示の実施態様では、本体19は突き出た弾性片22を備える。弾性片22は羽根板21の間にあり、球20が回転すると羽根板21に繰り返し叩かれる。(特表2015-502172)]

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 elasticは引っ張ったときの変形に抵抗する性質、すなわち元に戻る性質を意味する形容詞です(名詞:elasticity、副詞:elastically)。対応する日本語は「伸び縮みする」、「伸縮する」、「弾力性のある」などです。resilientは「回復力」に主眼が置かれているのに対し、elasticは力による伸縮に主眼が置かれています。例えば、an elastic waistbandは「伸縮性ウェストバンド」のことです。

用例2.Movement of the movable member 72 is transmitted via the elastic supports 74 and causes vibration of the component 69. (WO2013/093469)[可動部材72の動きは弾性支持部74を介して伝達され、要素69を振動させる。(特表2015-502172)]

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 elasticの反対語はinelastic(弾力性のない)です。また、elasticと対比してよく使用される語はplastic可塑性)で、名詞形はplasticityです。

 高分子化学の分野ではelastomerplasticがよく使用されます。elastomerは「弾性体」すなわち「ゴム」のことで、伸びたり縮んだりします。また、elastomer 製品は一般に高いresilienceを持っています。

 これに対して、plasticは「プラスチック」あるいは「樹脂」などと呼ばれていますが、その性状は複雑です。例えばplastic sheetは後で述べるflexible(柔軟な)なものもあれば、rigid(剛直な)なものさらには変形に対してfragile(壊れやすい)ものまで、多岐に渡っています。

 resiliencyelasticは境界領域が明確でないことが多くあります。そのために、英文ではこれらがor接続で使用されることがあります。

用例3.A measuring apparatus for measuring a semiconductor wafer, or a coating or a film on it, includes a conductive wafer chuck 4 and a probe 6 having a probe body 12 defining an internal cavity 14 in fluid communication with a conductive membrane 16 having elasticity or resilience. [半導体ウエハ、またはウエハ上のコーティングや膜を測定する測定装置であって、導電性ウエハチャック4と、弾性のまたは復元力のある導電膜16と流体接続した内部キャビティ14を画成するプローブ本体12を有するプローブ6とを含む。(特開2005-045216改)]

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 flexibleは破損なしに曲げるか折りたたむことができるがresilientでもelasticでもないものを意味する形容詞です(名詞:flexibility、副詞flexibly)。flexible plastic tubingは「可撓性プラスチック管」のことです。同義語にfloppyがあります。

 余談ですが、今や死語同然の「フロッピーディスク」は日本では商標登録されているため、特に特許請求の範囲でこの語を不用意に使用すると「公序良俗違反」という拒絶理由が発せられました。そのため、日英翻訳でfloppy diskとすると外国でも拒絶されるという都市伝説が生まれましたが、floppy diskしなやかなディスク)は一般名詞なので外国では商標登録されないはずなので、使用に問題ないのですが、それでも心配という方にはflexible diskを使用するように指導していました。つまり、同義語の言い換え技術を応用すればよいのです。ちなみに、diskette(ディスケット)も同じ物を指します。

用例4.The present invention relates to a pump (10) comprising a shaft (15) supported for rotation by a bearing (38) carried by a bearing carrier (48), said bearing carrier having a generally outer radial portion (52) which is fixed relative to a pump housing (12) and a generally inner radial portion (54) which is fixed relative to the bearing, wherein the carrier is stiff in a radial direction between said inner and outer portions and flexible in an axial direction for restraining radial movement of the bearing and allowing axial movement. (WO2012/004579)[本発明は、ベアリング担持体(48)により担持されるベアリング(38)によって回転支持される軸(15)を備えたポンプ(10)に関し、該ベアリング担持体が、ポンプハウジング(12)に対して固定される全体的に半径方向外側部分(52)と、ベアリングに対して固定される全体的に半径方向内側部分(54)とを有し、該ベアリング担持体が、該ベアリングの半径方向の移動を抑制し、軸方向の移動を可能とするために、該半径方向内側部分と半径方向外側部分との間で、半径方向に対しては剛直で、かつ軸方向に対しては柔軟である。(特表2013-531763改)]

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 この例に出てくるstiffrigidとともにflexibleの反意語で、「曲げにくい」あるいは「剛直な」という意味を持っています。名詞形はそれぞれstiffnessrigidityです。

 これらと類似の他の語にsupplespringyがあります。

 suppleは破損の兆しなしに簡単に曲げ、ねじり、または折りたたみ可能なものに使用する形容詞です。対応する日本語は「柔軟な」、「しなやかな」、「曲げやすい」などですが、力を除いても必ずしももとには戻らない点がflexibleと異なります。例えば、supple leatherは「しなやかな革」という意味です。

 springyはばねを表す名詞springから派生した形容詞で、圧力によるたわみやすさと元の形状への回復しやすさの両方を強調する語です。対応する日本語は「ばねのような」、「弾力(性)のある」などです。例えば、the cake is done when the top is springyは「上部に腰があればケーキはほどよく焼けている」という意味です。

 

違いが分かる技術用語・特許用語(6)

 

  1. cellbattery(電池)

 電池を意味する英語にcellとbatteryがある。cellは本来は監獄などの非常に狭い部屋を意味する語であった。これが転じて、動植物の「細胞」の意味を持つようになり、電気化学の分野では、化学反応で電流を生じる物質を含む容器、すなわち「電池」あるいは光を電気エネルギーに変える装置、すなわち「太陽電池」の意味で使用されている。携帯電話をcell phoneと呼ぶのは電波の受信範囲が細胞のように細かく区切られているからである。

 一方、batteryはMerriam-Websterにはa group of two or more cells connected together to furnish electric currentとあるので、通常は複数のcellを組み合わせたものを言う。

 蓄電池バンク(http://batterybank.jp/)の専門用語集には、「セル(cell)」を「電池の構成単位の一つで、単電池とも呼ばれます。乾電池型以外の二次電池は、一定の出力・電圧・容量を得られるように複数のセルを接続して作られており、それをパッケージングしたものが一般にバッテリーと呼ばれるものになります。したがって、乾電池はセル(単電池)そのもので、バッテリーはセルの集合体であると言えます。例として、カーバッテリー(鉛蓄電池)では電圧2Vのセルを6個直列に接続し、12Vの電圧(起電力)を得ています。」とある。英語では、https://circuitglobe.com/difference-between-cell-and-battery.htmlにOne of the major difference between the cell and the battery is that the cell is the single unit, whereas the battery is the group of cells.と説明があり、詳細な違いが表で要領よくまとめられている。

 従って、cellとbatteryを厳密に区別したい場合は、前者を「単電池」、後者を「組電池」とするとよい。なお、もっとも一般的な乾電池は一個の単電池で構成されているのでcellと呼ぶのがよい。これに対して、自動車に搭載される鉛蓄電池は複数の単電池を直列に配置して作られている。単電池の起電力は約2ボルトなので、6個を直列配置すると12ボルトの起電力が得られる。

 次に、cellの種類について述べる。

 乾電池(dry cell):乾電池は電解質(electrolyte)が通常は粉末の形態を取っている。現在では、電池の主流を占め、マンガン乾電池など多くの種類が市販されている。

 湿電池(wet cell):電解液を液体状体のままで使用する電池のことで、乾電池が普及するまでは、湿電池が主流であった。このように、電池にはcell(単電池)とbattery(組電池)の両方ある。

 蓄電池(reserve cell):鉛蓄電池のように充電可能な電池のこと。この呼び方は後で述べる二次電池(secondary battery)と混同を起こしている。

 燃料電池(fuel cell):水素と酸素を化学反応させて電流を発生させる装置。「電池」という名前は付いているが、蓄電機能は持っていない。単電池で約1.1ボルトの起電力を持っているが、実用電圧を得るために燃料電池を直列に配置したものを「燃料電池積層体(fuel cell stack)という。燃料電池にはbatteryという語は使用しない。

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 太陽電池(solar cell):光起電力効果(photovoltaic effect)を利用し、光エネルギーを電力に変換する装置。発光ダイオードと逆の原理を使用している。燃料電池と同じく、蓄電機能は持っていないのでbatteryという語は使用しない。太陽電池を複数枚直列接続したパネル上の製品をソーラーパネルまたはソーラーモジュールという。燃料電池と異なり、縦に積み重ねる(stack)することはできないので、こちらはpanelという。モジュールを複数個並列接続したものをソーラーアレイという。

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 モジュールは所定の電圧を得るためにセルを直列に配置し、アレイは所定の電力(電流)を得るためにモジュールを並列に配置している。

 次に、組電池(battery)の種類について述べる。

 一次電池(primary battery/cell):電池内の電気化学反応が不可逆で再使用できない電池。ほとんどの乾電池がこれに属する。実際には充電可能なものもあるが、充電できるように設計されていないので火災や爆発の危険性があるので、決して充電してはならない。筆者はあるとき間違って充電したことがある。幸い事故には至らなかったが気づいて冷や汗をかいた記憶がある。

 二次電池(secondary battery/cell):充電可能な電池。rechargeable battery/cellとも言う。鉛蓄電池は古くから使用されている二次電池であるが、「二次電池」という用語自体よりも古くから使われているので「蓄電池」と呼ばれている。現在使用されている代表的な二次電池は「リチウムイオン電池(lithium ion battery/cell)」である。

 

  1. 陽極(cathode)と陰極(anode)

 電池以外の電機・電子機器ではanodeを「陽極」、cathodeを「陰極」と呼ぶが、電池では逆にanodeを「陰極」、cathodeを「陽極」と呼ぶ。これは、英語と日本語では定義の基準が異なっていることに由来する。

 英語のanodeとcathodeの語はファラデーにより命名され、ギリシャ語で上り口を意味する'anodos'と下り口を意味する'cathodos'に由来する。つまり、anodeは反応系(電池内部)から電子が流入する電極を意味し、cathodeは反応(電池内部)系に電子を流出する電極を意味する。

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 日本語の「陽極」は電位の高い方の電極を指し、「陰極」は電位の低い方の電極を指す。電流は電位の高い方から低い方へ流れる(電子は負の電荷を持っているので電位の低い方から高い方へ流れる)ので、上図のボルタ電池でも理解できるように、cathodeが「陽極」ということになる。

 電池だけが日本語と英語の関係が逆転している理由は、電池は他の機器にエネルギーを供給しているが、他の機器や装置は外部から電気エネルギー(直流電流)の供給を受けていることによる。

 ここで、素朴な疑問が発生する。二次電池を充電する場合は、外部からエネルギーを取り込んでいるので、電極の役割は放電時(使用時)とは逆になっている。日本語も英語も充電時の電極の呼び方は電気化学的には正しくないと言うことになる。しかし、電極の呼び方を放電時と充電時で変えることは、非現実的である。

 そこで、現在では電池の+記号の付いている極を「正極 (positive electrode)」、-の記号の付いている極を「負極 (negative electrode)」と呼んでいる。最近の二次電池の特許では、「陽極」、「陰極」と呼ばずに、「正極」、「負極」と呼んでいるのはこうした事情によるものである。

 蛇足だが、電池の電極をpoleとした訳は好ましくない。

           

 

 

 

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