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実戦コラム

違いが分かる技術用語・特許用語(5)

4       rejectionobjection[拒絶(理由)]

 今月は、法律用語の類義語について説明する。特許の審査過程で、rejectionとobjectionは頻繁に使用される。語源から説明すると、rejectionは動詞reject(投げ返す→拒絶する)の、objectionは動詞object(反対に投げる→反対する)の名詞形である。

 米国の審査実務ではこれらの語は次のように使い分けられている。

rejection: 審査中の発明に特許性がないと判断された場合にはrejection(拒絶理由)が出される。特許性の判断は主に第102条(新規性)と103条(自明性)に基づいて行われる。他に112条(明細書の記載要件)、101条(発明の有用性)に関するrejectionもある。

objection: 明細書の記載にスペルミスなどの不備がある場合や、図面の番号と明細書中の番号の不一致がある場合に出される方式違反通知。

 以上のように、米国ではobjectionは書面の不備などの形式的拒絶を意味し、rejectionは新規性・非自明性などの実体的拒絶を意味する。これらを合わせてoffice action(拒絶理由通知)と呼ぶ。

 下記に、方式違反理由に関する典型的な文を掲げる。

1.    Claim 1-5 are objected because of the following informalities.(クレーム1~5は形式違反により拒絶される)

2.    The drawings are objected under 37 CFR 1.83(a).(図面は37 CFR 1.83(a)の規定により拒絶される)

 実体拒絶理由に関する典型的な文は次の通りである。

1.    Claim 1 is rejected under 35 U.S.C. 101 because the claimed invention is directed to non-statutory subject matter as follows.(クレームされた発明は下記の通り非合法の対象に向けられているのでクレーム1は米国特許法第101条の規定により拒絶される。)

2.    Claim 2 is rejected under 35 U.S.C. 102(b) as being anticipated by (引用例)(クレーム2は引用例により実質的に同一であるので米国特許法第103(b)条の規定により拒絶される)〔新規性違反〕

3.    Claims 1, 8 are rejected under 35 U.S.C. 103 (a) as being unpatentable over {(主引例) in view of (補足引例) / (引例1,引例2,・・・,and 引例n)}.(クレーム1及び8は主引例に補足引例/(引例1から引例n)を組み合わせて特許性がないので米国特許法第103(a)の規定により拒絶される。)〔進歩性違反〕

4.    Claim 5 is rejected under 35 U.S.C. 112, first paragraph, as failing to comply with (Written Description/Enablement/Best Mode) requirement.(クレーム5は明細書の記載要件/実施可能要件/最良の形態要件を満たしていないので米国特許法第112条第1段落の規定により拒絶される。)

5.    Claims 1-7 are rejected under 35 U.S.C. 112, second paragraph, as being indefinite for failing to particularly point out and distinctly claim the subject matter which applicant regards as the invention.(クレーム1~7は出願人が自己の発明であると考える主題を特定的に指示し、かつ明確に主張していないため不明瞭であり、米国特許法第112条第2段落の規定により拒絶される。)

 

 次に、EPC特許庁による実務について述べる。EPC特許庁の拒絶理由通知は方式、新規性、進歩性に関するものを含めてすべてCommunicationと呼ばれる。「拒絶(査定)」はrefusalと呼ばれる。

 日本特許の審査における「拒絶」もEPCと同じく方式・実体ともにrefusalが使用される。動詞はrefuseである。

 以上のように、米国は2種類の用語があり、EPC及び日本とは異なる用語を使用しているので注意が必要である。

 

5       oppositionobjection[異議(日本)]

 特許実務用語和英辞典(日刊工業新聞社)によると、登録異議の場合はoppositionを行政不服審査法上の異議の場合はobjectionを使用するとある。従って、審査過程の異議に関してはoppositionを使用すればよい。EPCの異議もoppositionである。

 ついでに、「異議申立人」はopponent、異議申し立てを受けた「特許権者」はpatenteeである。

 

6       appealtrial[審判(日本)]

 審判には拒絶査定不服審判と無効審判の2種類ある。前者は審査で拒絶査定(Decision of refusal)に対する不服を申し立てるのでAppeal against decision of refusal(略してAppeal)という。用語appealは裁判では地裁判決に不服の場合に、高裁に控訴するときに使用される。特許の場合も審判で再審査を要求するので同じ語が使用されている。この場合の「審判請求人」はappellantという。呼び方が違うだけでapplicantと同一人である。「審決」はappeal decisionという。

 審決に不服の場合、出願人は知財高裁に審決取り消し訴訟を提起することができる。訴訟を起こす人をplaintiff(原告)といい、起こされる人をdefendant(被告)という。ここでは、plaintiffapplicantと同一人であり、defendantは特許庁長官である。

 これに対して、成立した特許に対して利害関係人が無効審判をを行う場合は、Trial for invalidationという。用語trialは訴訟における裁判・公判あるいは審理の意味で使用される語で、無効審判にもこの語が流用されている。無効審判は上訴事件ではないので「審判請求人は」appellantではなくrequesterと呼ぶ。被請求人はrequesteeであるが、特許権者(patentee)と同一人であり、requesteeはあまり使用されない英語なので、審判請求書を英訳する際には、patenteeを使用しても差し支えない。審決はtrial decisionという。

無効審判の審決で、requesterの主張が認められなかった場合、すなわち特許が維持された場合、requesterは知財高裁に審決取り消し訴訟を提起することができる。この場合は、requesterplaintiff(原告)となり、patenteedefendant(被告)となる。逆に、特許無効の審決が下された場合の訴訟ではpatenteeplaintiff(原告)となり、requesterdefendant(被告)となる。

 審判や審決取り消し訴訟関連の書類を翻訳する際はこれらの関係を正しく理解しておかねばならない。

 

7       仮明細書(provisional specification)と完全明細書(complete specification)

 日本特許法の第41条は国内優先権を規定している。これは、最初に出願した日から12ヶ月以内に発明の内容を補強した出願を最初の出願日を優先権主張して行うもので、1985年に導入された制度である。国内優先制度は他の国でも採用されており、米国では最初の出願を仮出願(provisional application)といい、完全な通常の出願をcomplete non-provisional applicationという。それぞれの明細書をprovisional specification(仮明細書)とcomplete specification(完全明細書)という。

 随分昔のことになるが、英国特許の訴訟事件の翻訳が日本の訴訟事件に使用されたことがある。その中に「不完全明細書」という表現があったので何のことかと思って調べてみるとprovisional specificationのことだった。確かに、complete specificationよりは不完全かも知れないが、あまりよい訳とは言えない。日本の国内優先と異なり、英国の仮明細書ではクレーム(請求項)の記載は不要だったので、翻訳者は書式が不完全という意味に捕らえたのかも知れない。もっともcomplete specificationと称する明細書の中身も、技術的には何がcompleteなのかが判然としないこともよくある。

 

8       おまけ 米国におけるapplicantinventor

 長い間、米国では発明者が特許出願するという建前を貫いてきたため、applicantは日本でいう「出願人」ではなく、「発明者」のことを指していた。米国からのPCT出願の書誌事項にInventor/Applicant (for US)と書いてあるのは「発明者」のことである。しかし、2011年の特許法の大改正に伴い、各国に歩調を合わせ、出願人(applicant)と発明者(inventor)が分離された。英日翻訳で旧法に従う明細書中にapplicantという語が出てきたときは、「発明者」と訳すのが正しい。

        

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