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実戦コラム

違いが分かる技術用語・特許用語(3)

3       subjectobject(被写体)

 この2つの英単語は、類義語である場合と対比語である場合がある。具体的な説明の前にこれらの語の原義を説明する。

 まず、subjectは接頭語のsub-(下に)に接尾語のject(投げる)がついたもので、下の立場において制御あるいは支配するという意味を持っている。一方のobjectは接頭語のob-(に反対して)にjectがついたもので、反対に投げるという意味を持っている。

 この2つの語は撮影の「被写体」という意味で使用されている。翻訳者がしばしば迷うのは、「被写体」に対してsubjectとobjectのどちらを選ぶのがよいか、ということである。一言で言うと、subjectは被写体をテーマとしてとらえた言い方、objectは被写体をものとしてとらえた言い方のようである。インターネットでnative writersの意見を調べても、この2つの用語の使い分けは必ずしも明確ではない。強いて言えば、subjectは人や生物に対して使用し、objectは無生物に対して使用するという区別があるという人もいる、ということくらいである。

 そこで、特許明細書で「被写体」がどちらの語で表現されているかを検証する。まず、subjectの用例を挙げる。

 

用例1.      The support 102 may support the sensor(s) 104 in relation to the head 110 of a subject (e.g., a medical patient).  (WO2014/165022)

 

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[支持体102は、被写体(例えば、医療患者)の頭110との関連でセンサ104を支持してもよい。(特表2016-517307改)]

 

 用例1は人の能を検査する光断層撮影システム装置に関する特許の記述である。被写体は人でありsubjectが使用されている。

 

用例2.      A live-subject verification module 21 can also be stored in the storage device 4. As will be described in more detail herein, the live-subject verification module 21 can include computer-implemented instructions for identifying live-subject portions in an image. For example, the live-subject verification module 21 can include instructions for identifying live human skin, e.g., live-skin portions, of an image that includes the live subject 1. (WO2014/133844)[生身の被写体検証モジュール21もまた、記憶装置4に保存することができる。本明細書でより詳細に説明するが、生身の被写体検証モジュール21は、画像中の生身の被写体部分を識別するためのコンピュータによって実行される命令を含むことができる。例えば、生身の被写体検証モジュール21は、生身の被写体1を含む画像の生身の人間の肌、例えば生身の肌部分を識別するための命令を含むことができる。(特表2016-514305改)]

 

 用例2は人の肌を検証しており、subjectが使用されている。

 

 次にobjectの用例を挙げる。サンプリングの数が少ないので決定的ではないが、被写体という意味ではsubjectよりはobjectの方が多い。

 

用例3.      A biconvex lens 664 receives light from the object-side lens 662, and is physically coupled to a negative meniscus lens 666, which focuses the light onto the curved surface 668.  (WO2014/204998)[両面凸レンズ664は被写体側レンズ662から光を受け取り、負のメニスカスレンズ666と物理的に結合していて、湾曲面668に集光している。(特表2016-523382改)]

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 用例3は純粋に光学系の記述で、被写体(明細書には立体的とのみ記載されている)が何であるかについては無関心である。従ってobjectが使用されている。

 

用例4.      The singular point detecting and tracking is used to identify objects such as the head and hands of an imaged individual. Such objects are usually considered highly important features for the recognition layer 116. (WO2014/143154)[特異点検出及び追跡を用いて、撮影された人物の頭部及び手のような被写体を識別する。これらの被写体は通常、認識層116にとって非常に重要な特徴と考えられる。(特表2016-513842改)]

 

 用例4は画像処理の特許である。具体的な被写体は人の特に頭部であるが、subjectではなくobjectが使用されている。

 

用例5.      This invention concerns a method of inspecting an object 6 comprising locating an object 6 on a machine vision apparatus1, attaching a light panel 10 to the object 6 to backlight a region of the object 6, obtaining an image of the region when backlit by the light panel 10 and identifying a geometric property of the object 6 from the image. (WO2014/122438)[本発明は、被写体6を検査する方法に関し、マシンビジョン装置1に被写体6を位置づけることと、被写体6の領域を後方から照らすために光パネル10を被写体6に取り付けることと、光パネル10で後方から照らされたときに前記領域の画像を取得することと、この画像から被写体6の幾何学的特性を識別することと、を含む。(特表2016-513248改)]

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 用例5はマシンビジョンで使用する装置に関するものである。マシンビジョンは、人の目の代わりに画像を認識し、位置決めや種別、計測、検査を行うシステムのことである。 製造業では電子部品や半導体、自動車、食品や医薬品などの検査工程で、デジカメやスマートカメラ、画像処理ソフトで構成されるシステムが、人間の検査者の代わりに製品検査を行う。従って被写体6は工業製品あるいは仕掛品である。

 

まとめ

1. 「被写体」に相当する英語にsubjectとobjectがある。

2. subjectとobjectの使い分けは必ずしも明確ではないが、subjectは被写体が人の場合に使用されるという説がある。ただし、この説は英英辞典などではよく確認できていない。

3. 特許明細書の事例では、subjectは人に対して使用されている。一方objectは物と人の両方に使用されている。

4. 撮影の主題として見るときはsubject、撮影の対象として見るときはobjectとするという、観点の違いで説明する人もいる。

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