ホーム>特許翻訳トランスプライムコラム>実戦コラム>違いが分かる技術用語・特許用語(2)
実戦コラム

違いが分かる技術用語・特許用語(2)

特許明細書で使用される頻度の高い類語の使い分けについて述べる。

2   factorとcoefficient(係数)

 この2つの英単語は、日本語ではどちらも「係数」と訳されている。ただし、factorは、「要因」、「因子」、「因数」、「倍数」などの日本語の意味もある。これに対して、coefficientは、数学では変数の前の係数、物理では物質に固有の係数ということで、どちらも「係数」の意味しか持っていない。

 まず、数学におけるfactorとcoefficientの違いを説明しておく。例えば、3x+4y+xyという式で、factorは1項目が2つ(3とx)、2項目が2つ(4とy)、それに3項目が3つ(1、x、およびy)ある。数式では1は省略されている。この式で、1項から3項までの数字3, 4, 1をcoefficientと呼ぶ。つまり各項のfactor(s)のうちの定数をcoefficientと呼ぶ。

 次に物理量におけるfactorとcoefficientの違いを説明する。まず、coefficientは物質に固有の性質を表す語として用いられている。例えば、coefficient of absorption(吸収係数)、coefficient of diffusion(拡散係数)、coefficient of thermal expansion(熱膨張係数)などがあげられる。coefficientを名詞で修飾する場合は上記のようにofで後から修飾するが、最近ではthermal expansion coefficientのように前置修飾も行われている。

 摩擦係数も物質に固有の性質なので、coefficient of friction(略称:COF)(これも最近ではfriction coefficientともいう)が正しいが、friction factorという言い方も見かける。これに関しては、https://www.quora.comにcoefficient of friction μ(摩擦係数)は乾燥固体のloss mechanism(損失機構)を、friction factor fD(摩擦係数)は流体のloss mechanismを意味する、とある。

 数値の増減を示すときの係数をfactorという。例えば、factorにはcalibration factor(較正係数)、correction factor(補正係数)、conversion factor(換算係数)などがあげられるが、これらはいずれも「倍率」の意味を持っている。従って、この場合のfactorは単位を持たない。

 まず、factorの用例を示す。

用例1.      A first method obtains and analyzes calibration factors (and corresponding timestamp data) for a continuous glucose sensor, and regulates entry into a closed-loop operating mode of the infusion device based on the calibration factors and timestamp data.  (WO2014/035672)[第1の方法では、連続式グルコースセンサーに対する較正係数(および対応するタイムスタンプデータ)を取得して分析し、較正係数およびタイムスタンプデータに基づき注入装置が閉ループ動作モードに入るのを調節する。(特表2015-528348改)]

 用例1で、timestampはある出来事が発生した日時・日付・時刻などを示す文字列のことである。

用例2.      The resulting, estimated fixed codebook gain is multiplied by a correction factor selected from a gain codebook to produce the quantized fixed codebook gain gc. (WO2012/109734)[その結果得られた推定固定符号帳の利得に、利得符号帳から選択された補正係数を乗算して、量子化固定符号帳の利得gcを生成する。(特表2014-509407改)]

用例3.      In step 402, the value of the mixing balance input 203 is compared to the adjusted metadata scale factor. (WO2012/039918)[ステップ402において、ミキシングバランス制御入力203の値を調節後のメタデータ倍率と比較する。(特表2013-543599改)]

用例4.      Solubilise compound(s) to 1 mg/ml using DMSO taking into account salt factors if any. The DMSO stock(s) may be used to make all calibration & quality control (QC) samples (WO2008/053194)[各化合物を、塩係数がある場合、この係数を考慮して、DMSOを用いて1mg/mlに溶解する。得られたDMSO原液を使用して全ての検量線用および品質管理(QC)用試料を調製してもよい。(特表2010-508338改)]

 用例4における、salt factorは、化合物が塩の場合に遊離状態の化合物に対して、塩を構成する酸または塩基部分の重量増加を補正するための係数を意味する。医薬特許では、遊離化合物の他に医薬的に許容される塩もクレームされることが多いが、薬効は酸あるいは塩基部分にはないので、調剤の際に重量増加分を補正する必要がある。この補正係数がsalt factorである。

用例5.      Dynamic or non-core power in the DRAM memory system 104 may be represented by Equation 1:

       Dynamic Power = kCV2f * density (1), wherein:

k = data activity factor
C = load capacitance
V = voltage
f = frequency or toggling rate
density = total capacity in gigabytes (GB).  (WO2015/061541)[DRAMメモリシステム104内の動的電力すなわち必須ではない電力は、式1によって表わすことができる。
 動的電力=kCV2f*密度 (1)、
ここで
k=データ活動係数
C=負荷キャパシタンス
V=電圧
f=周波数すなわちトグル率
密度=ギガバイト(GB)単位の総容量
である。(特表2016-538628改)]

 次にcoefficientの用例を紹介する。

用例6.      The sleeve has a high coefficient of friction compared to sleeves of the prior art. (WO2016049149)[このスリーブは先行技術のスリーブと比べて高い摩擦係数を有する。]

用例7.      The cumulative adsorptivity coefficient (Ac) is calculated using the formula
Ac = [(A - B)/A] x 100
where A represents the total amount of comb-type polycarboxylate ether polymer or polymers (PCE) added to cement slurry which is then filtered, B represents the amount of PCE remaining in the pore water obtained through filtration, and where the filtration and adsorptivity measurement is carried out at room temperature (25 degrees Celsius) using analytical equipment capable of measuring the concentration of the PCE in the pore water. (WO2015/057380)[累積吸着性係数(Ac)は次式を用いて計算する
c=[(A-B)/A]×100
Aはセメントスラリーに添加され、次に瀘過される1種以上の櫛状ポリカルボキシレートエーテルポリマー(PCE)の総量を表わし、Bは瀘過により得られた間隙水中に残留するPCEの量を表わす。瀘過と吸着性の測定は間隙水中でPCEの濃度を測定することができる分析装置を用いて室温(25℃)で実施される。(特表2016-539022改)]

 この用例では、absorptivity coefficientが使用されているが、単位が%なのでadsorption rateでもよい。ただし、adsorption rateは吸着の割合を示す以外に、「吸着速度」を表す場合もある。

用例8.      The four-process cycle provides a higher coefficient of performance than prior cycles in the crank-driven Vuilleumier heat pump and those previously disclosed for a mechatronically-driven Vuilleumier heat pump. (WO2015/077214)[この4工程サイクルは、クランク駆動ヴェルミエヒートポンプでの従来サイクルおよび機械電子駆動ヴェルミエヒートポンプに関して以前に開示されたものよりも高い成績係数を提供する。(特表2016-537603改)]

 成績係数はヒートポンプの消費電力1kwあたりの冷暖房能力(kw)を表したもので、この値が大きいほど運転効率が高い。成績係数は単位を持っていない。

これ以外の用語も「係数」と呼ばれることがある。以下にその例を挙げる。

用例9.      As an example, the increase in elastic modulus of the vitrified stromal tissue can comprise at least one of: a 10% increase of an axial modulus (wherein the axial modulus is through the cornea from anterior stroma to posterior stroma), at least a 10% increase of a shear modulus, or any combination thereof. (WO2015/073150)[一例として、ガラス化基質組織の弾性係数の増加は、軸係数の10%の増加(軸係数は、前部基質から後部基質までの角膜にまたがる)、剛性率の少なくとも10%の増加、若しくは、それらの組み合わせのうちの少なくとも一つを含み得る。(特表2016-539688改)]

 この例の、elastic modulus弾性係数)は物質の剛性(変形のしにくさ)を表す物性値のことで、弾性範囲における応力と歪みの間の比例定数を意味する。弾性率とも呼ばれる。単位はGPa(ギガパスカル)である。英語ではelastic coefficient, elastic modulus, modulus of elasticity, resilient modulusなどの呼び方がある。また、axial modulus軸弾性率)は縦応力(longitudinal stress)と一軸縦歪(uniaxial longitudinal strain)の比例定数のことで、shear modulus剛性率)はelastic modulusの一種で、せん断応力せん断歪の間の比例定数のことである。

用例10.      Referring to the Tables of aspheric constants (Tables, 1C, 2C, 3C, 4C, 5C, 6C, 7C, and 8C), the aspheric equation describing an aspherical surface may be given by:

2018126141046.png

where Z is the sag of surface parallel to the z-axis (the z-axis and the optical axis (AX) are coincident in these example embodiments), r is the radial distance from the vertex, c is the curvature of the surface at the vertex (the reciprocal of the radius of curvature of the surface), K is the conic constant, and A, B, C, D, E, F, G, and H are the aspheric coefficients. (WO2015/065730)[非球形定数の表(表1C、2C、3C、4C、5C、6C、7C、及び8C)を参照すると、非球形表面を説明する非球形式は、以下のように提供されてもよい。

2018126141046.pngのサムネイル画像

式中、Zはz軸に平行な表面のたるみ(これらの例示的実施形態では、z軸及び光軸(AX)は一致する)、rは頂点からの半径距離、cは頂点における表面の曲率(表面の曲率半径の逆数)、Kは円錐定数、並びにA、B、C、D、E、F、G、及びHは非球形係数である。(特表2016-537689改)]

 原文のaspheric coefficientsaspheric constantsの間違いである。従って訳も「非球形定数」に統一すべきである。なお、定数は単位を持つ場合と持たない場合の両方ある。有名なプランク定数(h)は6.626070040(81)×10−34 Jsで、ジュール秒というSI単位を持っている。

 次に、日英翻訳の訳例を挙げる。

【課題1】   

201812614631.png

 

ここで、式(20)におけるWは補正値を表す。

訳例:where W represents a correction factor.

 日本語の「補正値」は明らかに「補正係数」を意味している。字句通り訳したcorrection valueは意味をなさない。

 

まとめ

1. 数学では、数式の各因数をfactorと呼び、その中の定数をcoefficientと呼ぶ。

2. 物理では、物質に固有の性質を持つパラメータをcoefficientと呼ぶ。

3. 数値の増減を示すときの係数をfactorと呼ぶ。

4. coefficientとfactorの区別の曖昧な用例もある。

5. elastic modulus(弾性係数)のように、特別な呼び方をするものもある。

6. 日本語の「係数」を訳すときは、これらの状況を加味して英語を決める必要がある。

7. 日本語には「係数」という語が使われていないときでもこれらの語がふさわしい場合がある。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.transprime.co.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/70

ページ上部へ