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実戦コラム

クレームにおける先行詞の欠落 ( Lack of Antecedent Basis)

大阪のセミナー(2010.2.13)でクレームの冠詞に関する議論(審査官から通常の文法ならtheのところをaに補正する拒絶理由が発せられること)の中で、受講者の方から関連するMPEPの条文をご連絡いただきました。
関連する条文は次の通りです。

2173.05(e) Lack of Antecedent Basis [R-5]
A claim is indefinite when it contains words or phrases whose meaning is unclear.The lack of clarity could arise where a claim refers to “said lever” or “thelever,” where the claim contains no earlier recitation or limitation of a leverand where it would be unclear as to what element the limitation was makingreference. Similarly, if two different levers are recited earlier in the claim,the recitation of “said lever” in the same or subsequent claim would be unclearwhere it is uncertain which of the two levers was intended. A claim which refersto “said aluminum lever,” but recites only “a lever” earlier in the claim, isindefinite because it is uncertain as to the lever to which reference is made.


この部分では、「レバー」を例にとって、クレームの不明確さを説明しています。
初出の「レバー」を said/the lever とした場合は、この限定がどの要素のことを述べているのか不明瞭ならばクレームは明確さを欠いていることになる、としています。
また、two levers を述べた後に said/the lever とすると、どちらの「レバー」を指しているのか不明になるのでやはり、クレームは不明確となる、としています。
さらに、単に a lever としておいて said/the aluminum lever とした場合も、初出の a lever に対する限定かどうかが不明瞭である、としています。

Obviously, however, the failure to provide explicit antecedent basis for termsdoes not always render a claim indefinite. If the scope of a claim would bereasonably ascertainable by those skilled in the art, then the claim is notindefinite. Energizer Holdings Inc. v. Int’l Trade Comm’n, 435 F.3d 1366, 77USPQ2d 1625 (Fed. Cir. 2006)(holding that “anode gel” provided by implication theantecedent basis for “zinc anode”); Ex parte Porter, 25 USPQ2d 1144, 1145 (Bd.Pat. App. & Inter. 1992) (“controlled stream of fluid” provided reasonableantecedent basis for “the controlled fluid”).

この部分では、用語に対して明示的な先行基礎(antecedent basis)がないからと言って常にクレームが不明確になるとは限らない、としています。

当業者がクレームの範囲を合理的に確定できる場合は不明確でないということで、判決例が紹介されています。

nherent components of elements recited have antecedent basis in the recitationof the components themselves. For example, the limitation “*the outer surface ofsaid sphere” would not require an antecedent recitation that the sphere has anouter surface*. See Bose Corp. v. JBL, Inc., 274 F.3d 1354, 1359, 61 USPQ2d 1216,1218-19 (Fed. Cir 2001) (holding that recitation of “an ellipse” providedantecedent basis for “an ellipse having a major diameter” because “[t]here can beno dispute that mathematically an inherent characteristic of an ellipse is amajor diameter”).

 
この部分では、説明された要素の固有の成分はその成分自体の説明において先行基礎を有する、としています。
たとえば、「該球体の外表面」という限定は球体が外表面を持つという先行する既述を必要としない。
さらに、判例の紹介部分では、数学的に楕円の固有の性質 は長径を有していることは争いのない事実なので
「楕円」という説明は「長径を有する楕円」という先行基礎を提供する、としています。

現在、審査官が拒絶の対照とする場合があるのは The thickness of the plate is greaterthan 5 cm. という文で 
thickness が初出の要素だから A thickness と補正すべきであるという趣旨のものです。
板が厚みを持つことは当業者にとって自明の事柄なので、この審査基準(判決のサポートがある)に照らし合わせれば、
A にする必要は全くないことになります。
通常の文法ではこれは定冠詞です。
従って、この条文を知らない審査官が出した拒絶理由ということになります。

このケースで不定冠詞の場合は次の様な場合に限られます。

①厚みが場所によって変化し、その内の一カ所を指す場合(従って、この文脈では複数もありうる)。
②厚みが時間とともに変化し、その内の1つを指す場合(複数もありうる)。
③If an equatorial hydrogen of cyclohexane is replaced by a methyl group, ~ のように限定であっても複数のものが存在する場合(equatorial hydrogens もありうる)。

結論から言えば、特許文法なるものは存在しないと言えるでしょう。
本当に重要な特許の場合は、審査官の指示に盲目的に従うのではなく、MPEPを引用した反論も必要ではないでしょうか?
実際に争われているケースもあるようです。

ただし、the thickness of the plate という書き方は別の意味で推奨できません。
クレームでは要素は独立して並べますが、穴、溝、面、突起など要素に付随する物(本当はこれも要素ですが)は
a/the plate having a hole のように目的格で表現するのが好ましいとされています。
thickness 等の寸法や性質を表す語も直接の要素ではないので目的格で表現する方が好ましいのです。
つまり、先ほどの例では The plate has a thickness (of) greaterthan 5 cm. とします。
目的格の場合は必ず不定冠詞の a/an をとります。そうすることによって、審査官の拒絶理由も回避することができます。

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